クトゥルフの呼び声シナリオ「知られざる中米文明」

シナリオ作者:すがはら
ゲーム作者:サンディ・ピーターセン、リン・ウィリス(翻訳:中山てい子)
発売元:(株)ホビージャパン
プレイヤーの人数:3人〜5人
プレイ時間:キャラメイクを除いて4時間程度
シナリオのタイプ:恐怖ものシナリオ

 (株)ホビージャパンから出版された「クトゥルフの呼び声」用シナリオです。 人智を超えた魔物の狂気と恐怖をお楽しみください。
 なお、プレイヤーに中南米文明とクトゥルフ神話の両方に詳しい人がいると、シナリオの最後の邪神の正体があっさりバレてしまうことも考えられます。 それでも別段問題はありませんが、念のためご注意ください。



■概要
 東京帝国大学の教授が、中米で未知の文明の存在を裏付けるピラミッドを発見した。 発掘の発表会として東京三越百貨店で催されている「知られざる中米文明」展は、連日多くの入場者で賑わっている。 しかしそのピラミッドに祀られていたのは人の神ではなく……。



1.NPCデータ

〇高取 栄治郎(たかとり・えいじろう) 男性、48歳
STR:12 DEX:10 INT:18 アイデア:90
CON:10 APP:12 POW:16 幸  運:80
SIZ:12 SAN:80 EDU:20 知  識:99
99−<クトゥルフ神話>:99    ダメージ・ボーナス:なし
耐久力:11
M・P:16
正気度ポイント:80
[技能]
信用:30、図書館:80、英語:70、スペイン語:70、説得:30
歴史:90、考古学:90、化学:10、人類学:30、博物学:80
自動車:30、オカルト:20、拳銃:20
 東京帝国大学文学部考古学教室の教授です。  中南米の歴史に詳しく、一年のうち半分ほどを現地で過ごします。

〇高取 玉代(たかとり・たまよ) 女性、16歳
STR:08 DEX:09 INT:16 アイデア:80
CON:09 APP:12 POW:11 幸  運:55
SIZ:12 SAN:55 EDU:10 知  識:50
99−<クトゥルフ神話>:99    ダメージ・ボーナス:なし
耐久力:10
M・P:11
正気度ポイント:55
[技能]
図書館:50  信用:20  芸術(バイオリン):30   博物学:50
考古学:30  自転車:30 応急手当:20  文学:50 歴史:30
天文学:20  医学:10  オカルト:10  隠れる:10
 高取栄治郎の一人娘です(ちなみに母とは死別しています)。 栄治郎が留守がちなので、高取太一郎の家に世話になっています。

〇ヘビ人間
STR:13 DEX:15 INT:18 CON:14
POW:15 SIZ:13 ダメージ・ボーナス:+1D4
耐久力:14
M・P:15
武器:噛みつき35%(ダメージ…1D8+毒(POT:14))
装甲:ウロコ(1ポイント)    正気度喪失:0/1D6
呪文:イグとの接触、ヴールの印、悪夢、イグの子供の召喚、ヨグ・ソトースの拳
 人間の姿に変身したヘビ人間です。

〇高取 太一郎(たかとり・たいちろう) 男性、50歳
 高取貿易という会社の社長で、高取栄治郎教授の兄です。 弟の発掘に資金援助をしています。 そのお礼に教授から贈られたヒスイの首飾りにより絞殺されます。
 なお「高取貿易」は、主に中南米からボーキサイトや鉄鉱石などの原材料を輸入する業務をしています。 系列的には三菱財閥に近いです。
 太一郎自体に妻子はなく、玉代を実の娘のように可愛がっています。 また高取の屋敷にはメイドや執事などの使用人が何人かいます。

〇立花 義己(たちばな・よしみ) 男性、36歳
 東京朝日新聞の記者で、高取教授の発掘に同行し、記事を連載していました。



2.シナリオの流れ

(1)「知られざる中米文明展」
 東京三越百貨店の最上階催事場で、「知られざる中米文明展」が開催されてます。 この企画展は、東京帝国大学の高取栄治郎教授が中米で行ったマヤ・アステカ文明の発掘に関する成果発表会です。 主催は三越百貨店で、協賛・後援は高取貿易と東京帝国大学、そして東京朝日新聞です。
 「知られざる中米文明展」は、事前に東京朝日新聞で連載された発掘同行取材記事が評判になり、前評判は高いです。 PC達は少なくとも、こういった記事や列車等の吊り広告を見たりして、この展覧会のことを知っています。
 また学生・教師・新聞記者・女給のキャラは、様々なルートから前売り券を入手しています。 なお新聞記者・警官・探偵は、東京朝日新聞や三越百貨店に、この企画展を中止するよう脅迫する手紙が届いていることを知っています。 警察はこれを「悪質な悪戯」と考えているようです。
 女学生のキャラは、高取教授の一人娘である玉代と知り合いです。
(PC中に女学生がいる場合はそのPCが、女学生がいない場合にはPCのうちの一人が下のイベントに遭遇します。)
 玉代は学校帰り、道の真ん中で立ちすくんでいます。 見ると行く手に大きな蛇がとぐろを巻いて、しゅうしゅうと威嚇しているのです。 蛇を追い払うなどすると、玉代は真っ青な顔をしながらもお礼を述べます。
 玉代は「幼い頃から蛇だけは苦手で……」と取り繕いますが、何だかやつれたような感じを受けます。 ちらりと「最近、奇妙な夢を……」とつぶやきますが、すぐに「なんでもない」と打ち消します。

 次の日、PC達は連れ立って企画展に行きます。
 会場は結構な混雑です。 特に今回の発掘の目玉として報道された、新発見のピラミッドの内部を再現したフロアには多くの人がいます。 このフロアは、ピラミッドの内部に発見された小部屋を模した展示がされていて、真ん中に生贄を捧げた台座の模型があります。 この台座の上には美しいヒスイの仮面が置かれていて、周囲には奇妙な神の象が並び、特に正面の大きな象は「台形の帽子をかぶり、胸に貝飾りをつけた、くちばしのある神」の象で、右手に黒曜石のナイフを握っています。
 ここで「アイデア」ロールをさせてください。 成功したPCは、この神の象の胸に奇妙な「窪み」があることに気づきます。 丁度大きなメダルがはまるくらいの大きさで、何か奇妙な感じを受けます。
 そのときPCの一人に、人がぶつかります。 まだ秋だというのに、ロングコートにソフト帽を被った背の低い男です。 帽子を深く被っているため表情はよくわかりませんが、ただ大きくて赤い唇だけがやたら目立ちます。 男は何も言わず、ただにやりと不気味な笑いを浮かべて立ち去ります。
 入れ違いに玉代や高取教授が現れます。 玉代は先日のPCにお礼を述べ、父や伯父を紹介します。 高取太一郎はPC達に「今夜私の家でささやかなパーティーをするので来ないか」とPC全員を誘います。 家族3人だけでは寂しいので、ぜひにと玉代たちも誘います。
 その晩、PC達は高取太一郎の家で夕食をごちそうになります。 太一郎の家は山の手にある大きな洋風建築の邸宅で、高取教授が日本にいる間の住居、そして普段は太一郎と玉代の住居です。 執事や運転手、メイドやコックなどの使用人が数人います。
 夕食は豪華で、話もはずんでいきます。 高取教授に発掘の話を聞くと、上機嫌で面白おかしく話してくれます。 雰囲気はとても仲のよい家族です。
 そして夜遅くなってきたので、よかったら泊まっていかないかと薦めます。
 女性PCがいた場合、玉代がぜひにとお願いします。 そこには何か懇願するような感じすら受けます。 そしてそのPCがいいというと、玉代は一緒の部屋で寝たいと言います。
 女性PCが玉代と同じ部屋に泊まることにした場合、玉代は寝る前に「最近嫌な夢をよく見る」と、ぼそっとこぼします。 夢の内容はいつも同じで、「どこか洞窟のような暗いところを抜けて、やがて大きな部屋に着く。私はそこの真ん中にある大きな岩に括られて、そしてナイフを胸に突きたてられて殺される。殺す相手の顔はよく見えないけど、何やら仮面のようなものを被っているような気がする」というものです。
 なおその晩、女性PCは何か「しゅるしゅる」という奇妙な音と、玉代がうなされている声で目が覚めます。 玉代は大粒の汗をかきながら、ベッドの上でもがき苦しんでいます。 起こすと、玉代は悪夢の話をしてくれます。 内容はほとんど同じですが、殺され方が刺殺から絞殺に変わった、というのです。 「アイデア」ロールに成功すれば、視界のすみを何やら緑色の「もの」がよぎったのに気づきます。 しかしそちらのほうを見ても、何もありません。
 ちなみにこの時窓の外を見れば、ロングコートを着た背の低い男が庭でにやりと笑っているのを見かけます。



(2)密室の殺人
 次の日の朝、朝食の時間になっても太一郎が起きてきません。 太一郎の寝室の扉は鍵がかけられていて、ノックしても返事はありません。
 扉をやぶったり、ベランダづたいに部屋を覗くと、太一郎がベットで絞殺されているのが分かります(SANチェックをしてください。失う正気度は、0/1D3です)。
 太一郎の首には、縄のようなもので絞められたような痕がはっきり残っています。 また、部屋に物色されたようなあとはありません。 鍵は確かにかけられてあり、しかも部屋の鍵は太一郎のガウンのポケットから発見されます。 マスターキーも太一郎の机の中にあり、使用人に聞いても鍵はそれぞれ一本ずつしかない、と証言します。
 高取教授や玉代はショックの余り呆然とします。 高取教授の近くにいるPCは、教授が「まさか……本当に呪いが……?」とつぶやくのを耳にします。 ただし、聞き返しても教授は適当にはぐらかしてしまいます。
 PCの中に探偵か警官がいたら、教授は事件の解決を依頼します。

 その後、高取家では捜査や葬儀の準備が行われます。
 高取家にいたPCは、教授の姿がみえなくなっていることに気づきます。 使用人の一人が「教授は大学に数日間休むと連絡しに行くと言っていました」と言います。 ですが、夜になっても教授は帰ってきません。

〇太一郎の部屋
 豪華な装飾品や家具が綺麗に並んでいます。 趣味はそれなりにいいようです。
 ベッドのまわりや室内に、何らかの仕掛けが施されたような形跡はありません。 机の引き出しには日記があり、それは事件前日まで毎日びっしりと書かれています。 その多くは仕事に関する内容のものですが、「目星」に成功すれば事件数日前に気になる記述があることを見つけます。
「〇月×日 栄治郎から首飾りをもらう。ヒスイの緑色がとても美しい。文様も何やら異教の神々を象っているようで興味深い。」
 しかし、その「首飾り」はどれほど部屋を探しても見つけることはできません。

〇庭
 事件の晩、背の低い男がいた辺りを見ても、特にこれといった痕跡はありません。 ただ、庭の芝生の上全体に、何か重いものを引きずったような痕がついています。

〇高取教授の研究室
 大学に行っても教授はいません。研究室の鍵は開いています。
 机の上には「研究ノート」があり、発掘の詳しい記述が書かれています。 「目星」ロールに成功すれば、首飾りの記述が見つかります。
「今日、偶然にも新しいピラミッドの内部への入り口を発見する。 高鳴る気持ちを抑えつつ、とりあえず一人で奥に進む。 と、今まで見たこともないような豪華な装飾を施した部屋に出た。 大きな台座、石づくりの神々の象、そして何よりもヒスイの仮面をつけたケツアルコアトルと思われる神の象……。 とりわけその象の胸につけられたヒスイのメダルに目が奪われた。 私はそれをこじとり……嗚呼、思えば愚かなことをした。 明日にでもメダルを元通り神の象にはめ込んで来よう」
 しかし、次の日もその次の日にも、結局最後までメダルについての記述は出てきません。

〇「知られざる中米文明展」
 企画展の会場はその日も多くの人が訪れています。 行くと同行記事を書いた新聞記者に逢えます。 記者は発掘の様子を語ってくれますが、首飾りのことについては「知らない」と答えます。



(3)その日の夜……
 その晩、記者が殺されます。
 誰かPCが夜に出歩いていた場合、事件は彼の目の前で起こります。 公園など人影の少ないところで、背の低い男がにやにや笑いながら立っているのを見かけます。 駆け寄ると男は逃げますが、男が立っていた辺りでは、脇の茂みで何やらしゅるしゅるという音がします。 見ると、闇が晴れるような感じで、徐々に死体が露になってきます。 死体は全身に毒が回り、紫色に変色しています。
 死体をみたPCはSANチェックをしてください。 今回失う正気度ポイントは0/1D6です。
 また次の日の朝の新聞で、PC達は昨晩三越百貨店最上階の企画展会場に泥棒が入ったことを知ります。 泥棒は祭壇のヒスイの仮面と黒曜石のナイフを盗んでいったとのことです。 そのためとりあえず今日のところは「知られざる中米文明展」は臨時閉館することになりました。
 高取教授は朝になっても帰ってきません。

〇教授の研究室
 東京帝国大学の教授の部屋に行っても、教授はいません。 ただ乱雑に積み上げられた書類の上に、何冊かの外国語の本が丁寧に積まれているのを見つけます。 読むには外国語(英語またはスペイン語)か図書館の技能判定に成功する必要があります。 その本の内容はアメリカ先住民に伝わる神話や民間伝承に関する研究論文で、特に邪神に対する「生贄の捧げ方」に関する部分に多く下線が引かれています。



(4)儀式のはじまり
 高取邸に電話がなり、玉代がとります。 そしてしばらく話していたら、玉代は「お父さんのところへ荷物を届けにいきます」と告げ、出かけて行きます。
 もしPCがついていくと、途中で怪しい二人組に襲われます。 片方は背が低い男、そしてもう一人は高取教授です。 PCを殴ったあと、二人は玉代を押さえ込み連れ去っていきます。
 高取教授の研究室に行くと、窓が開け放たれていて書類が風に舞っています。 窓の外には足跡がついていて、それをたどると大学構内のマンホールに続いています。 マンホールから下水道に入ると、水の音に混じってかすかに何やら怪しげな声が響いてきます。 声に近づいていくと、下水道の一角が壊れ、天然の鍾乳洞とおぼしき通路が現れます。 その奥からは何やらぼうっとした光が漏れてきています。
 奥に進むと、そこは例の企画展のフロアそっくりの場所になっています。 周囲には鍾乳石が立ち並び、その真ん中には大きな石筍があります。 その石筍の上には、襦袢姿の玉代が縛られてます。 気は失っていないようですが、猿轡をかまされています。 玉代の前には、ヒスイの仮面を被りヒスイの首飾りをした高取教授が、左手にノート、右手に黒曜石のナイフを握り、怪しげな呪文を唱えています。
 PC達が踏み込もうとすると、その脇から背の低い男が現れます。 「我が神の儀式を冒涜するものに呪いあれ」と聞き取りにくい言葉でしゃべり、にやりと笑いながら顔の皮膚をびりびりと破いていきます。 そしてその皮膚の下からは、ヒスイに似た蛇特有の鱗が現れます(SANチェックをしてください。ヘビ人間をみて失う正気度は、0/1D6です)。
 ヘビ人間と戦っている間に、高取教授の呪文は完成しています。 教授は何の躊躇もなく、娘の腹に黒曜石のナイフを突きたてます。 しかし……特に何事も起こりません。
 と、倒したはずのヘビ人間の首だけがぐるりと巡り、にやにや笑いながらくぐもった声で告げます。 「儀式は完成した。我等がイグよ、この愚か者どもに神罰を!」
 同時に高取教授が苦しみはじめます。 彼が身につけたヒスイの首飾りが蛇に姿を変え、教授の首を絞めはじめたのです。 そして気がつくと、PC達の回りには多くの蛇がとぐろを巻いて、PC達を威嚇しています。
 数ターン後にはイグがその姿を表します。 それまでにPCが脱出すれば、下水道の出口付近で背後からこの世のものとは思われないような絶叫が聞こえます。
☆参考 〜イグ、ヘビたちの父〜
STR:30  DEX:18  INT:20  CON:120
POW:28  SIZ:20  ダメージ・ボーナス:+2D6
耐久力:70
武器:手でつかむ90%(ダメージ2D6、ダメージボーナスなし)
噛みつき95%(ダメージ1D8+歯が通った時点で即死)
装甲:ウロコ(6ポイント)    正気度喪失:0/1D8


エピローグ 〜イグの呪い〜
 玉代の怪我は、幸い急所をそれていたため命に別状はありません。 しかし彼女が受けた精神的ショックは大きく、入院することになります。 PC達が見舞いに行くと、玉代は精神を病んでいて、ただへらへらと微笑みを浮かべるだけです。 話しかけたりしても何の反応も示しません。
 医者に話を聞くと、どうやら彼女には妊娠の兆候も見られると告げられます。
 玉代はPC達と一緒に、看護婦の押す車椅子で外に出ます。 と、庭の草むらの中から一匹の蛇が顔を出します。 そのとき玉代を見ていたPCは、玉代がにやりと笑ったのをみます。

※正気度ポイントを1D6回復させてください。
その他、各技能の成長もルールどおり行ってください。





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